【ボクは育休を取りたいんだ!】悲しき「年休」の英語訳
年休、いわゆる有休を英語で何というか。
paid holiday
paid vacation
paid leave
annual leave
paid days off
いろいろある。ここで私達が気にするのは、paid、すなわち休んでも給料が出るかということだ。年休は、風邪の療養に当てようが、旅行に行こうが、家族を介護しようが、どんなことに使っても構わない。理由すら言わなくていい。とにかく労働者に保障された、有給の「休み」のことだ。
この度イギリス人の同僚に、二人目の子どもが生まれることになった。彼は上の子と奥さんをサポートするために、10日ほど仕事を休みたいと考えていた。自身であれこれ調べた結果、育児・介護休法で定めている、いわゆる「産後パパ育休」を取りたいと職場に申し出た。子どもの出生後8週間以内に4週間まで、2回に分割して取得できる制度だ。育児休業中は無給のため、国からの育児給付金を申請しようとしていた。休業開始時賃金の67%(休業開始から6か月経過後は50%)が支給される。また、育児休業中の社会保険料は免除され、給与所得が無ければ雇用保険料も生じず、その結果、手取り賃金で比べると、休業前の最大約80%が受け取れるのだ。
しかし私は、彼には今年度の年休がまだ20日あることを知っていた。10日休んでも、あと10日は残る。ただ、子どもはいつ熱を出すか分からないし、不測に事態に備えて、年休は多いに越したことはない。それを想定して、敢えて20日の年休を残したいと考えているのか。でも私達は過去に、年休を全部消化できたことがない。せいぜい5〜6日だ。替えがききにくい職業であることと、家族ともども健康に恵まれてきた、ということでもある。
(*以下ネイティブとの会話は英語ですが、便宜上、日本語で書きます。)
率直にこの疑問を投げかけてみると、「ボクは休むためではなく、育児のために休暇を取りたんだ」という。だから paid holidays(年休)を使えばいいのでは?と言うも、彼は paternity leave (男性の育休)にこだわり、正式に育休を取りたいと譲らなかった。正々堂々と休みたいという彼の真面目さかもしれないと思ったが、年休を取るのも別に違法ではないし、何となく解せないままでいた。
帰りにもう一人の同僚(アメリカ人)に聞いてみた。すると、
「この感覚は、日本人には絶対に分からないよ。労働者にはもっと休暇が必要なんだ。」
という。
私達の職場は、必要な時に普通に年休が取れる、極めてホワイトな環境にあるが、それでも遠慮気味になるのが日本人の気質だ。長年日本に住んでいる彼は、それを察している。
「もっと休暇が取りやすくなるといいのは分かるよ。でも今回は育児のためなのは明白だし、年休で給料が全額保証されるのに、どうして敢えて減給覚悟で国の制度を利用したいのか、そこを理解したいのよ。年休なんて、どんな目的に使ってもいいのに。」
「何に使ってもいいの?」
「そうよ。病気の時はもちろん、育児でも介護でも、旅行でも何でもいいのよ。」
「paid holiday なのに?」
「そうよ、paid holiday とはそういうものよ。」
「???」
ここから同じ言い合いを3回くらい繰り返しただろうか。
私の英語が悪いのか、どうも話が通じていないように思えた。
この堂々巡りの原因は何なのか。
もしかして、holiday?
holiday には、休暇で旅行したり家族や友人と楽しく過ごしたりするニュアンスがある。イギリスやアメリカでは paid holiday は、レジャーに使うように響くのではないか。
私達英語科ではこれまでお互い、年休の表現を深く考えることなく paid holidayという単語でコミュニケーションしてきた。仕事を休む時のほとんどが、職場から要請されている年休最低期間を消化するためで、いわゆる休暇 (holiday) として使ってきたからだ。
「paid holiday は、単なる paid days off なんだけど。」
と言い換えてみた。
「え、そうなの?」
やっぱり原因は holiday だったのか。
アメリカやイギリス で働いたことはないが、考えてみると年次休暇は、目的によっていろいろな言い方がある。
holiday
vacation
leave
maternity leave
paternity leave
sick leave
日本では、病休も年休から消化していくが、イギリスやアメリカでは、それとは別に有給の sick leave あったりする。
後日、イギリス人の彼には前年度からの繰り越し分もあり、合計40日の年休があることが分かった。私は改めて年休の規定を説明し、管理職とも話した結果、年休から7日間の休暇を取ることになった。
外国語は単に言葉を置き換えればいいものではなく、お互いの社会制度や文化、歴史、地理など様々な背景を理解しないと成立しないことがよく分かる。年休の訳で重要だったのは、paid は元より、それに続くholiday か leave か days off だった。日本の年休制度を正しく理解してもらうためには、これからは annual paid leave/day(s) off for any purposes (どんな目的にも使える年次有給休暇)と言った方がいいかもしれない。
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